農林水産業転職市場:高齢化とDX化で広がる若手キャリアチャンス
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市場規模と成長性:農林漁業全体の国内生産額は、近年約十二兆円前後で推移していると報告されています。内訳は農業が約九兆円、水産業が約二・八兆円、林業が約〇・五兆円と構成されています(二〇二三年推計)。市場全体では人口減少・高齢化による国内市場の縮小傾向がある一方、
スマート農業や
輸出拡大、
六次産業化といった新たな成長戦略が推進されており、特に付加価値の高い分野や技術開発分野での成長が見込まれています。
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具体的な年収データ:農林水産業における年収は、自営か雇用かによって大きく異なります。農林水産省の統計によると、主に農業所得で生計を立てる
主業農家の平均農業所得は、約四百三十三万円(令和三年度)と、給与所得者の平均(約四百四十三万円)と遜色ない水準とされています。一方、農業法人などに雇用される
雇用就農者の平均年収は、約三百四十四万円(令和三年度)と報告されており、独立農家に比べて所得水準は低い傾向にあるとされています。しかし、農業法人での勤務は安定した月給や福利厚生、賞与(年二回、月給四ヵ月程度の支給実績がある企業もあると報告されています)が得られるため、未経験者にとってはリスクの低い選択肢と言えます。
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キャリアパス詳細:農業法人への雇用就農の場合、以下のようなキャリアパスが想定されます。
| キャリア段階 | 期間目安 | 習得スキル・役割 |
|---|
| 1年目(基礎研修) | 入社〜一年 | 基礎研修、OJT、農作業の基本、機械の簡単な操作、農薬や肥料の知識 |
| 3年目(専門技術) | 一年〜三年 | 専門技術(栽培・畜産等)習得、後輩指導開始、農機具整備士等の資格取得 |
| 5年目(リーダー) | 三年〜五年 | チームリーダー、圃場(ほじょう)管理、プロジェクト管理、高度な栽培技術対応 |
| 10年目(管理職・独立) | 五年〜十年 | 営農管理職(現場責任者)、独立開業、専門分野エキスパート |
このパスはあくまで一例であり、法人によっては
六次産業化(生産・加工・販売までを一貫)の部門で、商品企画や営業・IT部門へのキャリアチェンジも可能です。
未経験から農林水産業に就く!採用動向と研修制度の実態
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人手不足の実態:農林水産業は従事者の
平均年齢が約六十八歳(二〇二三年推計)と高齢化が深刻であり、特に地方では担い手不足が大きな課題となっています。この人手不足を背景に、多くの農業法人や林業・水産関連企業が
未経験者歓迎の採用を積極化しており、若手人材の獲得に注力しているとされています。
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未経験者歓迎の背景:未経験者採用を強化する企業では、
研修制度の充実や
資格取得支援を積極的に行っていると報告されています。特に、農業においては新規就農者を対象とした
「農業次世代人材投資資金(旧・青年就農給付金)」などの公的支援制度も充実しており、自治体と連携した手厚いサポート体制を敷く地域も増えているとされています。
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資格取得支援:働きながら「農業機械士」「農薬管理者」「食品衛生管理者」などの資格取得を支援する法人が増えている傾向にあると言われています。特に、大型のトラクターや船舶を運転するための
大型特殊免許や
小型船舶操縦士免許は、業務の幅を広げる上で重要な資格とされています。
農林水産業への転職:宮城県大崎市の事例に見る地域別の求人動向と成功戦略
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地方の農業の特徴:今回の動画の舞台である
宮城県大崎市は、世界農業遺産
「大崎耕土」に認定されており、ササニシキやひとめぼれといった宮城を代表する米の生産が盛んな地域です。中央の平野部では水田稲作、中山間地域では畜産や野菜・花卉栽培が複合的に営まれており、多様な農業経営が展開されています。大崎市のように歴史ある農業が根付く地域では、
地域密着型の求人が多く、地域の祭りや伝統行事への参加など、仕事と生活が密接に関わる傾向が強いとされています。
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地域特有の求人傾向:大崎市では、
新規就農者への支援が手厚く、農業次世代人材投資資金の交付者が県内一位の実績を誇ると報告されており、意欲のある若手人材を積極的に受け入れる土壌があると言えます。求人は稲作関連の法人、畜産法人、米の六次産業化(加工・販売)を行う企業などが中心です。また、豪雪地帯や中山間地域では、農業の閑散期に
除雪作業や
林業との兼業を可能とする求人も見られ、年間を通じて安定した収入を確保するための地域独自の工夫があるとされています。
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地域別年収差:農業所得だけで見ると、
北海道の畑作のように大規模経営が可能な地域は所得が高くなる傾向がありますが、雇用就農者の年収は地域差に加え、法人の規模や経営形態、取り組んでいる六次産業化の有無によって大きく変動すると言われています。一般的に、
都市部の近郊農業(高単価の野菜や花卉)や
大規模な法人経営は高水準の年収を実現しやすいとされていますが、地方でも住宅費などの生活コストが低いことを考慮すると、実質的な可処分所得は都市部と遜色ないケースも多いと言えます。